- 井土まちづくりレポート第4号 2023年1月7日
見て、聞いて、考える 12 年目
井土地区では、震災前まで暮らしていた住民が集まり、当地区の今後について積極的に、そして前向きに検討していくための住民団体「井土まちづくり推進委員会」が昨年夏に設立されました。かつて暮らしていた住民へのアンケート実施やお便りの発行をとおして、「ふるさと」としての井土の継承を多世代で考えていくための場づくりを始めたところです。
今回はこの1年の総仕上げとして開催した「井土地区見学会」についてご報告します。2011 年 3 月に発生した東日本大震災で大きく被災した井土地区の現状を多くの方に知っていただきたく、発災から 12 年目を迎える3 月 12 日に見学会を井土津波避難タワーを会場に開催しました。
当日は若林区役所職員や仙台市議、宮城県議等もお招きして、今後の井土地区について意見交換を行いました。「今の井土は、『復興した』とは言えない」
見学会の冒頭、井土町内会の三浦紘一会長より「今の井土地区は、とても『復興』と言える状態ではない」というお話がありました。現在の井土町内会は構成員 20 名、平均年齢 78.5 歳という状況で「限界集落ではなく、『消滅集落』になるのではないかという危機感を強く持っている」として、ぜひ参加者に一緒に歩いていただきながら現状を見ていただき、井土地区の今後を一緒に考えていく契機にしたいという開催趣旨が述べられました。
12 年目の、さまざまな光景
当日は雲一つない晴天で、とても暖かな日でした。津波避難タワーから南に歩き出し、井土浦川へ。大震災から 11 年が経った現在でも、井土浦川には当時の瓦礫が積まれたままで、撤去の見通しが立っていません。集落内を進んでいくと、住居が建っているところ、更地となっているところ、プレハブや資材置き場等、さまざまな光景が目に入ります。
住居については、住んでいる方もいれば、解体せずにそのままにしている方もいます。近隣で工事を行う業者の方々のプレハブや資材置き場については、かさ上げ道路の工事中はもっと多かったといいます。また、「以前は業者さんの顔が見えていたが、最近ではどういう経緯で資材置き場になったのか分からないこともある」というお話もありました。
最後に、2020 年に再建された集会所へ。集会所の前には慰霊碑があり、井土地区で犠牲になられた住民の方々のお名前が刻まれています。前日の 3 月 11 日には合同慰霊祭が行われ、約 60 名が集まって黙とうが捧げられました。慰霊碑が建立された 2012 年以来、10 年ぶりの合同慰霊祭となりました。
世帯数激減の経緯
津波避難タワーに戻り、井土まちづくり推進委員会の三浦聡一委員長より、井土地区の被災状況と現状の課題についての説明が行われました。井土地区は、災害危険区域には指定されていません。しかしながら、世帯数は震災前の 103 世帯から10 世帯に激減しています。こういった状況について、「2011 年 5 月下旬に仙台市震災復興ビジョンの説明会が開催され、その時に井土地区は災害危険区域に含まれる可能性があるという話があった。翌月には残存家屋の公費解体の案内があり、これに申し込んで住居を解体した住民が多くいた。
10 月中旬に開催された第 2 回東部まちづくり説明会においても『移転対象は浸水予測 2m以上の地域』と示され、井土地区も対象となっていた。しかし、11 月 3 日の河北新報朝刊で井土地区は災害危険区域から外れることを知った。11 月 5日の仙台市による説明会では、防潮堤を延長した場合で再シミュレーションした結果、井土地区の浸水予測は 2m以下となり、現地再建可能エリアと判断できるという説明がなされた。公費解体によって家屋を手放した住民も多い中で、今後どうしようかという不安が広がった」という経緯が三
浦委員長から語られました。こうした背景をもとに、2011 年 11 月に「井土地区の移転問題を考える会」を住民有志で結成し、今後の土地活用について仙台市と話し合いの場を求める交渉を続けてきましたが、実を結ぶことはありませんでした(近隣の「市街化区域内の農地」と、井土地区の「市街化調整区域内の宅地」を、間にある近隣農地を介して換地を行う「押せ押せ換地」という案を仙台市から提案されたものの、あまりの実現性の乏しさに話し合い自体が難しくなったそうです)。
この後「考える会」は解散しましたが、住民に対しては、1 階天井浸水地域の住宅債権者への利子補給の救済策や敷地かさ上げの補助制度、井土地区希望者による区画整理事業組合に対する上下水道間の無償敷設等の支援がありました。
農地については、「農事組合法人井土生産組合」が設立され、井土地区内の農地管理は任せられる体制が構築されました。
しかしながら、井土地区の宅地の現状は変わらず、現在に至ります。
課題と向き合う 12 年目
三浦委員長から井土地区の現在の課題として三点挙げられました。一つは、「土地活用のハードルが高いこと」です。「井土地区は市街化調整区域であり農業振興地域でもある。それらの規制によって身動きが取れない状態。現在、宅地としての活用が難しいので、工事業者に資材置き場として提供している世帯もあるが、短期的な利用に留まっている。井土地区が暮らしの場として再生する将来像をなかなか見通すことが難しい」として、いずれ相続をするであろう若い世代との学習会を含めた、土地規制の緩和について検討する機会をつくっていきたいという抱負が述べられました。そして、住民だけでの課題解決は難しいことから、ぜひ行政とともに考える場をつくりたいという提案もなされました。
二点目は「住民同士で集まる場が少ない」という点です。これについては、井土町内会・まちづくり委員会・井土生産組合といった地元団体と連携したイベント開催によって機会づくりを行い、将来的には世代を超えてざっくばらんに話ができる状況をつくりたいという展望が語られました。
三点目は「情報発信が足りていない」という点です。コロナ禍もあり、なかなか集まる機会が持てない中で、『まちづくりレポート』の発行等、情報発信の拡充を行ってきましたが、まだまだ「みんなで共有」できる状態には至っていません。こうした課題の解決を含め、まちづくりへの若手の参加を望みたいところです。
今こそ参加型でまちづくりを!
約 2 時間にわたる井土見学会は、参加した議員の方々や仙台市職員の方からたくさんの激励をいただいて幕を閉じました。井土町内会の庄子喜代志副会長の「井土はようやく動き出すことができた」という言葉のとおり、大震災から 11 年経って、今一度考えて動き出すことができた 1 年であったと感じています。今後も、積極的に井土の皆さんの声を聞きながら今後のまちづくりを考えていきたいと思います。応援、ご参加のほどよろしくお願いいたします!
ご参加いただいた皆さんからも、応援コメントをたくさんいただきました!
鎌田さゆり 衆議院議員
仙台市の土地利用政策について改めて考えさせられました。 泉区でも同様の問題を抱えている地区があり、 市街化調整区域は仙台市の政策からこぼれ落ちている現状があると実感しました。 こういった課題は国交省が大きく絡んでくる話でもありますので、 今日のお話をしっかり受け止めて、 解決に向けて動いてまいりたいと思います。
福島かずえ 県議会議員
私は、 多少時間がかかっても、 本来は住民の皆さんが納得するまちづくりであるべきだと考えています。 この井土地区は災害危険区域から外れ、 「住んでもいいよ」 と仙台市が決めた場所です。 そうしたのであれば、 住み続ける形を行政も一緒に模索してほしいと考えています。 特区を含めた規制緩和のあり方をぜひ検討していきたいです。 今日もたくさんの議員が来ておりますので、 ぜひ超党派で取り組んでいきたい課題です。
三浦ななみ 県議会議員
大震災から12 年目を迎える中で、 全体として震災伝承も大きな課題としてあります。 そうした中で 「現地を見て考える」ことの大事さを本日の見学会で改めて感じさせられました。 仙台市沿岸部全体を周遊できるようになれば、 伝承だけでなく、 住民の皆さんが集まりやすくなって今後の地域づくりにも役立っていく部分があるのではないかと思います。 本日見聞きしたことを踏まえて、 今後も皆さんの取り組みを後押しできるように頑張りたいと思います。
菅原正和 市議会議員
戸数は 10 戸程度かもしれませんが、 ここに根差してきた風土は何物にも代えがたいものだと思います。 「井土メダカ」が有名ですが、 もっともっと井土の魅力はあるはすです。 ぜひ今後とも発信を続けてください。 そして、 私たちのような議員にも届けていただけると、 住民だけでは解決が難しい課題について一緒に勉強したり、 考えたりすることもできます。連携しながら、 課題解決に向けて動いていきましょう。
庄子あかり 市議会議員
昨年から市議会にて、 京都市が取り入れている既存集落整備型の地区計画制度を紹介しながら、 市街化調整区域かつ農業振興地域である井土地区の土地規制の緩和について訴えてきました。 3 月の議会では、仙台市都市整備局から 「住民の皆さんのお話も聞きながら、 地区計画のあり方について京都市の事例も踏まえつつ、 井土地区を応援していきたい」という話も出ました。 仙台市が前向きになっておりますので、 ぜひ連携しながら取り組んでいただきたいです。
鈴木すみえ 市議会議員
今日は現地を歩くことができて、 大変貴重な機会になりました。 地元の声を国政 ・ 県政 ・ 市政に伝えていくことはとても大事ですし、 震災から月日が流れる中で復興事業として実施されてきたことをきちんと検証していくことも重要だと思います。 そのためには、 地元側からの発信が必要ですし、 それが次の災害にも活きてくると思います。 今後とも地元の声を聞きながら連携してまいりたいと思います。
佐々木淳 若林区長
区役所としては、 住民の皆さんの声を受け止めることが出発点だと思っています。 区役所から専門部署につなぐことも含めて、 ネットワークづくりにご協力できたらと思っています。 住民の皆さんが集まるためのきっかけづくりについても役立てる部分があるかもしれません。 ぜひ情報交換しながら、 井土の今後のために一緒に取り組んでいきたいと思います。
※ご発言いただいた順番でご紹介させていただきました。
SNS を始めました!
「井土まちづくり情報局」としてツイッターを始めました。
また、note でも情報発信を始めましたので、ぜひご覧ください。【ツイッター】@ido9840842
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