• 井土まちづくりレポート第3号 2023年1月6日

    井土は貴重な自然資源の宝庫!

    今号では、2 月 26 日に開催した「井土自然環境学習会」の様子をお届けします。

    井土のここがいいね!Vol.2

    学習会の講師としてお招きしたのは、東北学院大学教養学部地域構想学科教授で生態学がご専門の平吹喜彦先生と、平吹先生の研究室で学ぶ学部4 年生の平塚善貴さんです。

    東北学院大学
    教養学部
    地域構想学科
    教授 平吹喜彦 さん
    東北学院大学
    教養学部
    地域構想学科
    4 年 平塚善貴 さん

    最初に、平吹先生から井土浜の特殊性について、海浜エリアの生態系の観点からお話をいただきました。平吹先生は、東日本大震災以降、宮城野区新浜地区で「砂浜海岸エコトーン (*)」と名付けた、波打ち際から防潮堤、その背後地に至るひと続きの自然環境を見渡した防災のあり方を提案するとともに、地域住民の方々との協働学習やフィールドワークを通して、新浜の自然環境を発信する取り組みを続けてきました。その中で平吹先生が気づいたのは、「地元の人が当たり前と思っている自然環境について、改めてみんなで触れて。見て、知って、語り合う機会は重要である」ということです。

    ▲すでにさまざまなことに取り組んでいる新浜地区の事例は、とても参考になりました。

    「豊かな自然の中で暮らした経験がある地元の方は、 津波でその環境が失われてしまっても 『海岸にはどのような植物があったのか』 『どんな魚や木の実を食べていたのか』 を語ってくださいます。 思い出の中に、 体験をとおして育んできた知識があるのです。 防災についても同様で、 『雨が降るとどこが危ないか』 といったことも経験的に知っています。 そうした地元の方にとっての 〈当たり前〉 を専門家や事業者と共有することは、 ともに自然環境を保全する姿勢をつくる上でとても大事なことです」

    (平吹先生)

    また、井土浜エリアの特殊性についても生態系の観点からお話をいただきました。大震災で残ったクロマツの間にはカシ類をはじめとした常緑広葉樹が確認され、これは他の地区では見られない自然再生のあり方だそうです。また、砂浜ではコウボウムギやハマヒルガオ、ハマエンドウが咲きほこり、一面花に覆われる時期もあるのだそうです。大震災を経て海岸のそばに新たに防潮堤が築かれましたが、藤塚地区と接続する東浦あたりに築造された防潮堤は砂で覆われており、自然環境との共生を目指した防災設備としても注目を集めているとのこと。こうした砂で覆われた防潮堤は、仙台沿岸地域ではここだけだそうです!

    *「エコトーン」とは?
    生き物の生息・生育環境が連続的に変化する場所のことを指します。仙台市沿岸部には海と陸、さらには河川も田んぼもあり、その環境はとても多様であるといえます。そのため、「エコトーン」はいろいろな生きものが暮らす貴重な場所のひとつです。東日本大震災の大津波で、こうした環境は大きく変化しています。

    ▲発表が終わった後は、井土の自然の中でどのように過ごしたかについて、思い出話に花が咲きました!

    2 月 26 日(土)に井土集会所で行われた「自然環境学習会」。
    「井土って、そんなに特別なところだったの?!」
    と驚きの声が聞こえるほど、新しい発見と自然の豊かさを再確認した学習会となりました。

    つづいて、4 年生の平塚さんから「貞山堀・井土浦の魚類と里浜の漁労」と題して取り組んだ卒業研究の発表が行われました。現在の井土浦の魚類の生息(生態的側面)とこれまで井土地区で行われてきた漁労文化(文化的側面)をみていくことで、今後の自然環境の再生と人の営みの関連性について検討してくことが平塚さんの研究テーマです。まずは井土浦に現在生息している魚類について報告があり、全部で 28 種類が確認され、特にハゼ科が多くみられたことが分かりました。絶滅危惧種であるヒモハゼ、エドハゼ、アベハゼも確認され、汽水域である井土浦の特性が生態系にも良い影響を与えていると考えらるそうです。また、ミナミメダカや二ホンウナギといった希少種も見られ、大震災で大きなダメージを受けたと思われた井土浦は、11 年経って豊かな生態系を取り戻していることが調査から分かりました。

    そして、井土地区の漁労文化については、1965年ごろまで貞山堀でのシジミ漁をはじめとした内水面漁業がみられたことや、地元の方々が貞山堀や用水路でウナギやコイ、ハゼを捕まえて食糧にしていたことが報告されました。また、「外流し」と呼ばれた、用水堀と各家庭の井戸が接続する洗い場について、「野菜・食器洗い場→コイやナマズの飼育場→釜洗い場」と 3 つに区切られており、「野菜の切れ端や食べ残しをコイやマナズが食べて大きくなる」「急な来客があった際に新鮮な魚を料理する」「釜を洗ったときに出る煤(すす)をきれいに洗い流す」という段階的な利用を行っていることが分かりました。こうした外流しの使い方は他の地域と比べて独特のものだったようです。

    「ただ歩いているだけでは分からなかった井土の自然の魅力を、調査することで気づくことができました。井土は生き物にとって重要なエリアであり、 その保全にあたってはかつて工夫しながら暮らしてきた住民の方々の知恵が必要だと実感しました」

    (平塚さん)

    平塚さんからは、今回の調査で分かった井土の自然環境の希少性とともに、これまで自然と向き合いながら暮らしてきた住民の方々の知恵を一緒に継承していくことが、今後の保全活動に求められるのではないかというお話がありました。

    知っているようで知らなかった井土の自然環境について学ぶ機会となり、とても有意義な時間となりました。平吹先生、平塚さん、ありがとうございました!

    近隣の町内会長も大注目!

    藤塚でも取り組んでいたカヤ刈りのことを懐かしく思い出しました。 私が中学生の頃までは、 集落内で 15人一組でグループをつくって、 毎年順番に東谷地でのカヤ刈りをやっていました。 藤塚は新しく温泉施設ができて大きく変わろうとしていますが、 まだまだ残っている自然に着目した形でもっと多くの人が訪れてほしいと思っています。

    東海林義一さん 小野吉信さん(元・藤塚町内会長、現・久保田東町内会長)

    三本塚には海辺がないので、 こうした豊かな自然環境を有する井土地区がうらやましいです。 私も、 子どもの頃は貞山堀で先輩方に泳ぎを教えてもらったり、井土の砂浜まで海水浴に出かけたりしていました。三本塚も大震災後の地域づくりのためにさまざまな取り組みをしています。 ぜひお互いに学びながら、また、連携しながら六郷を盛り上げていきたいですね。

    小野吉信さん(三本塚町内会長)

    井土の魅力的な自然、私にも語らせて!!

    平吹先生と平塚さんからの話題提供を踏まえて、今後の井土地区の地域づくりに活かせる要素について、参加してくださった皆さんと一緒に考えました。

    子どもの時の体験はとても重要

    昔は県道もなかったから、貞山堀まではあっという間。子どもの頃の遊び場は、海辺のほうだったよ。

    橋がなかったから、貞山堀は泳いで渡ったの。

    勝手に、よそ様の舟を借りて渡ったこともあったよね(笑)。

    「私たちの分野では『暗黙知』と言ったりしますが、その場での経験を重ねて体にしみ込んでいった知恵を、人間は忘れないものです。自然の中でたくさんの体験をすることが、自然環境の保全だけでなく、防災を考えることにもつながると思っています」

    (平吹先生)

    海辺は食べ物の宝庫だった!

    松林でのキノコ採りは熱心にやったよね。ショウロやキンタケ、 カンタケ、どれも美味しかった。また出たりしないのかしら?

    「コイの丸揚げ」 ?私は食べたことがないけど(笑)、昔は貞山堀でも用水路でも当たり前のように魚がとれたんだ。

    貞山堀で捕まえた魚を持って砂浜に行って、松林で拾った小枝で火をくべて、その場で食べてました。子どもの頃の話。

    「調査する中で『コイの丸揚げを食べていた。ウロコがカリカリして美味しかった』という地元の方の話を聞きました。当たり前の食べ方ではなかったのかな?皆さんが動揺しているので気になりました ( 笑 )」

    (平塚さん)

    ヨシはこれからの活用が肝!

    ヨシ刈りは本当に大変だった。 重労働。刈ったものは、屋根を葺くために使ったり、業者に売ったりしたんだよね。

    ちょうど12月ごろの作業。朝から、 干潮のうちに急いで作業するの。満潮の時は休憩して、また干潮を狙って作業に戻るの。

    あれだけたくさんのヨシを今は活かせてないので、何か活用方法を考えていきたいなぁ。

    全部刈るのに1か月ぐらいかかったもんだよ。

    「ヨシ刈りは里浜の生き物にとっても大切な行為で、良好な棲み処が確保されるんですよね。また、ヨシの品質も良くなる。現在の谷地にもたくさんの希少種がいると思います。ぜひ活用を図ることで、生態系の保全にもつなげてほしいです!」

    (平吹先生)

    今回の学習会で知ったこと、考えたことを、ぜひ今後の地域づくりに活かしていきましょう!